葬儀において、故人を拝む行為としてお焼香をおこなうのが一般的です。
初めてお焼香する際には、少し不安に感じることも多いわけですが、実はお焼香のやり方は宗派別に微妙に異なるのをご存じでしょうか。
お焼香のやり方を誤ると、故人だけでなく遺族の方などに不快な思いをさせてしまう可能性があるため、注意が必要です。
では、お焼香はどのようにすれば失礼に値することなく実施できるのでしょうか。
この記事では、お焼香の意味や宗派別の実施方法、そしてお供え物を持参する際の注意点を紹介します。
お焼香とは?
まずはじめに、お焼香の意味について解説します。
お焼香とは、一般的には葬儀や法事などにおいて、抹香を用いて執りおこなう儀式のことです。
末香とは、樒の葉を乾燥させて粉末状にしたものや、沈香などで生成されるものです。
中でも、樒の葉については魔よけの効果があると言われており、抹香として重宝されるケースが多いです。
榊の枝葉と並んで、仏事と密接な関係のある植物として有名でありますが、実は樒は根から実まで毒が含有されています。
これにより、魔よけとされた可能性が高い状況です。 また、樒はお線香の原料であるため割合身近なお香として広く活用されています。
お焼香では、抹香を手で摘んで、熱を帯びた香炉の中に落とし、香りを焚くのが一般的です。
また、お焼香といえば葬儀に執りおこなう印象が強いですが、実際には仏壇に線香をあげる行為もお焼香となります。
仏壇では棒状の線香を使用しますが、粉上の抹香との形式が異なるだけであり、意味合いは同様です。
お焼香の意味は?
お焼香は、一般的には故人のためにおこなうものとして認識されがちですが、実際にはお焼香をおこなう自分自身の穢れを落とす意味でおこなっているのです。
心身が清浄な状態で、仏や故人に向き合うために最初にお焼香を行なっている形です。
お焼香は、心を落ち着かせるために重要となる儀式であることを覚えておきましょう。
また、心身の穢れを落とした後に仏と故人に対して、抹香の香りを捧げて祈りを捧げていきます。
仏教においては、極楽浄土はよい香りに満ちていると言い伝えられています。 極楽浄土から仏が故人を迎えに来るときには、香りを持ち運んでくるとされています。
よって、仏が迎えに来やすい環境を整える目的で、葬儀において抹香を焚くことになるのです。
また、香りが周囲に広がることは、仏教の教えが広がっていることを意味します。
ほかにも、香りは時間とともに変化して、やがて灰になります。
これは、人間はいずれ消えていく存在であるということを表しており、仏の悟りを教えてくれていると言えます。
以上より、何気なくおこなっているお焼香には、実は深い意味があるのです。
よって、お焼香の意味を正しく理解して執りおこなう必要があります。
お焼香の手順について
お焼香をおこなう場合、マナーをしっかりと順守して失礼に値しないように対応しなければなりません。
お焼香のマナーとして、特に順番についてはしっかりと守っておこないましょう。
お焼香の順番としては、故人との関係が深い方が最初にお焼香するのが一般的です。
関係が深い順としては、配偶者や親子が筆頭となり、その中でも特に喪主が最優先で焼香を始める形となります。
葬儀の最中に、僧侶や葬儀社よりお焼香を始める旨のアナウンスがあったら、喪主からお焼香をおこなってください。
次に、席の並び順に従って親族からお焼香をおこない、親族の後に参列者のお焼香をおこないます。
席順によってお焼香の順番がほぼ決まる形となりますが、参列者に関しては特に並び順は決まっておらず、座った順でお焼香をおこなうのが一般的です。
お焼香の作法にも気を遣う必要がありますが、一般的には葬儀を執りおこなう宗派にあわせておこなうのではなく、自分の宗派の作法に従う形となります。
仏式のお焼香の順番を説明すると、自分の焼香の順番となった場合、席を立ちあがってください。
もし、立礼焼香のスタイルを採用している場合は、祭壇や葬儀の規模次第では香炉が複数台存在する場合があります。
その場合、空いている香炉を用いて焼香をおこなう形となります。 そして、自分が焼香する順番になったら、最初に遺族に対して一礼してください。
なお、遺族が座っている席は葬儀会場のレイアウトなどによって異なるため、事前に位置を確認しておくと良いでしょう。
軽く一礼した後に、僧侶と祭壇に対しても一礼をします。
この際に、通常は遺族からは軽く頭を下げるなどの対応がありますが、僧侶は特に対応しないため注意してください。
そして、香をつまんだら香炉にくべませてください。
この際に、お香を額に押すか押さないか、また何回やお香を落とす回数については、宗派によって異なります。
もし悩む場合は、喪主が最初に焼香するため、それに従えば間違いはありません。
焼香が完了したら合掌をおこなって、祭壇に一礼します。
そして、祭壇に顔を向けたまま2歩から3歩下がりますが、この際に祭壇にお尻を向けるのはマナー違反です。
最後に、遺族に一礼して席に戻り、着席するまでは一連の流れです。
なお、席に座った状態でお焼香をおこなう座礼焼香という方法もあります。
座礼焼香の場合、座布団やいすなどに座った状態で遺族に一礼、そして祭壇に一礼して立ち上がらずに膝で焼香台の前まで移動します。
そして、香をつまんで香炉にくべり、祭壇に一礼して数歩下がります。
最後に遺族に礼をして席に戻ってください。
さらに、回し焼香というスタイルでおこなわれるケースもあります。
回し焼香とは、一般的にはお盆に香炉とお香が乗せられている形となりますが、やり方は千差万別です。
スタンダードな回し焼香では、隣より回ってきた香炉となるお盆を畳の上に置きますが、いすに着席しておこなうケースでは床ではなく膝の上に置いて実施してください。
次に、ほかの焼香方法では遺族へ一礼しますが、回し焼香では省略されます。
そして、香をつまみ、香炉にくべらせ合掌し、一礼します。 最後に、隣の人に香炉を回せば一通りの回し焼香は完了です。
ここまでは、仏式のお焼香方法を紹介しましたが、そのほかの宗派におけるお焼香については、以下のとおりです。
神道儀式の拝礼
神道儀式となる神葬祭では、仏式とは違い焼香やお線香はおこないません。
ただし、実質的にお焼香と同じ意味合いで玉串奉奠をおこないます。
玉串とは、榊の枝に紙垂と飛ばれる、邪気を払って清浄をあらわす白紙を付けたものを指します。
神道儀式では、自分の順番になったら祭壇まで進み、遺族に対して会釈して挨拶しましょう。
次に、神官の前まで進んで、一礼した後に右手は根元を上から包み、左手は枝先を下から添えるような形で両手を使用して玉串を受け取ってください。
続けて、玉串を持ったまま玉串案の前まで進んで、祭壇に向けて一礼した後で右手で持っている玉串の根元を手前に向けて縦にします。
そして、玉串の根元を左手に持ち替え、根元が祭壇に向くよう右回りに半回転させましょう。
最後に、玉串の根元を祭壇に向けて、玉串案の上に丁寧に置いて正面を向いたまま2歩から3歩退きましょう。
そして、一旦立ち止まり二礼してから柏手を2回打ちますが忍手と呼ばれているように、音を立てずに拍手してください。
最後に再び一礼して退き、神官やご遺族に会釈してから席に戻ります。
キリスト教式・無宗教のお参り
キリスト教の場合、葬儀は教会において執りおこなう形となりますが、喪主や遺族、一般弔問客は一切区別しません。
故人の霊を慰めることを目的として、執りおこなうのが特徴です。
葬儀においては、生前に神から受けた恵みに対して感謝して、故人を神の手に委ねて天国で永遠の安息が得られることの祈りを捧げます。
また、仏式でおこなう焼香の代わりに献花するのが一般的です。
参列者は、祭壇の前に進んで故人に対して花をささげます。
献花で使用する花は、カーネーションやデンファレなどのように茎の長い白い花を使用するのが一般的です。
ただし、教会で事前に用意されているケースが大半であり、参列者が用意する必要はありません。
無宗教の葬儀においても、同様に焼香ではなく献花をおこないます。
献花に使用する花は菊やカーネーションなどが一般的ですが、故人が好んでいた花を選ぶ場合もあります。
献花は、喪主を先頭として遺族、親族、参列者の順番で執りおこないます。
お供え物を持参するときの注意点について
葬儀において、故人に対して感謝したり、遺族に対して弔意を表したりするため、供え物を持参する場合があります。
お供え物は、故人や遺族などに対して失礼に当たらないように宗派ごとに習慣や考え方に即したものをお供えしてください。
なお、以下についてはお供え物として不適切ですので注意してください。
不適切なもの | 理由 |
---|---|
肉・魚 | 仏教では、命を奪う意味がある殺生は戒律において最大の罪であると考えられており、肉や魚は殺生を連想させるという理由で避けるべきである。ただし、遺族やお寺の考え方によって、どこまでを避けるかは異なる。故人が好んでいたなどの理由でどうしてもお供えしたいものは、遺族などによく相談する。 |
昆布・鰹節 | 昆布や鰹節は、主に慶事で活用されているものであり、お供え物としては不向き。さらに、鰹節は結婚式の引き出物として広く使用されており、避けるのがベター。昆布も慶事で頻繁に使用されており、お供え物としては不適切。 |
鉢植え | 鉢植えに植えられた植物は土に根を張っているが、不幸が根を下ろして長く継続してしまうことを連想させるため、縁起が悪いと考えられている。どうしても花をお供えしたい場合は切り花を選択する。 |
辛い食品やにおいの強い食品 | 仏教では、以下のようににおいが強かったり辛みが強いものを五辛と呼ぶ。 アサツキラッキョウニンニクネギニラ 五辛は欲を刺激して修行の邪魔になるため避けるべきと考えられており、お供え物としては不向き。また、香りを召し上がる仏にとっては、においの刺激的な食品は適切ではない。 |
生菓子 | 日持ちしない生菓子、冷蔵保存する必要があるケーキなどは、お供えしにくいため遺族に負担をかけるという意味でふさわしくない。 |
焼香をおこなう際のマナー
焼香する際には、マナーを遵守して正しい方法で実施する必要があります。
特に、以下のマナーについて守って故人に対して拝むようにしてください。
- なるべく数珠を持参して身につける
- 手荷物を少なめにする
- 喪主や遺族に対して挨拶する
- 服装に注意する
各マナーについて、詳しく解説します。
なるべく数珠を持参して身につける
数珠は、称呼する際だけでなく、葬式や法事などにおいて欠かせないものです。
基本的に、1人に一つは持参して参列するのが一般的です。
数珠は玉を繋げて構成されていますが、玉の数は人間の煩悩を表して108個で構成されています。
数珠を常に携帯して手を合わせることで、煩悩が消えて功徳を得ることができると考えられています。
なお、108個が基本であるものの、正式な数珠は宗派によって異なるため、各宗派共通で使用できる略式の数珠を用いるのが一般的です。
略式の数珠については、18個から43個の間で構成されることが多く、正式な決まりは存在しません。
珠の素材については、宗派による違いはなく自分が気に入ったものを使用しても問題ありません。
宝石でできた数珠が存在しており、以下のような素材が使用されています。
- 水晶
- メノー
- ヒスイ
- サンゴ
- オニキスなど
特に水晶の場合は代表的な素材であり、、仏教では七宝のひとつとして数えられています。
数珠は、左手にかけて右手を添えるように合わせる、または合わせた両手にかけて親指で軽く押さえ合掌してください。
手荷物を少なめにする
焼香する際には、両手で合唱する所作をしなければなりません。
そこで、手荷物が多い状態で焼香すると、荷物を一度置いて実施しなければならず、置き場所に困る場合が多いです。
式場によっては、手荷物を一時的に置くことができる台などが用意されている場合がありますが、必ず用意されているものではありません。
そこで、焼香する際にはなるべく手荷物が邪魔にならないように、小さめの鞄を用意して必要最小限の荷物を持参するようにしてください。
喪主や遺族に対して挨拶する
式場において、喪主や遺族と対面する際には際には、はじめにお悔やみの言葉を述べてください。
丁寧な挨拶は不要で、「この度は誠にご愁傷様です」などと一言添える形での挨拶で問題ありません。
葬儀の場において、不幸が続くことを連想させるような重ね言葉を避けなければなりません。
重ね言葉とは、具体的に以下のような言葉を指します。
わざわざ、再三再四、たまたま、重ね重ね、いよいよ、度々、皆々様、重々、いろいろ、またまた、なおまた、次々、再々、益々、どんどん、だんだん、みるみる、いよいよ、日々、ときどき、くれぐれも、しばしば、かえすがえす
普段なにげなく使用する言葉も多いため、使用しないように意識して挨拶してください。
服装に注意する
お通夜において、焼香だけおこなうために参加する場合があります。
お通夜の参列では喪服を着用するのが一般的ですが、もし焼香だけおこなうために参列する場合でも、基本的に喪服を着用してください。
ただし、喪服を着用している時間がないようなケースでは、地味な色の平服を着用することで失礼に値しない場合があります。
その場合でも、近年ではお通夜のみ出席して告別式は出席しない場合もア増えていることから、焼香だけおこなうために参列する場合でも、喪服を着用する方がよいとされています。
学生の場合は、学校の制服や目立つ柄が入っていない地味な色の服装を着用することが望まれます。
まとめ
お焼香は、主に仏式の葬儀においては重要なものとなり、マナーを順守して正しく対応する必要があります。
また、仏式以外ではお焼香自体がおこなわれないため、宗派に合わせた対応が必要です。
今回紹介した内容を参考にして、お焼香とともにお供え物に対しても失礼に値しないように対応しましょう。
日本終活セレモニーでは、葬儀に関するマナーなどの情報をお届けしていますので、ぜひ参考にしてください。